2019年01月15日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|5.相続対策と空き家問題

空き家と土地活用

前回投稿した『4.市内に残る、遊休地、跡地利用』に続き、今日はテーマ5として、相続対策と空き家問題を取り上げました。急激な高度成長による土地価格の急上昇と、バブル崩壊による地価の下落を経験した日本は、今や土地は「不動産」ではなく『負動産』とまで言われるようになり、相続の際はお荷物にさえなりかねない状態になってきました。


テーマ:5相続対策と空き家問題

自治体にとって大きな問題になっている『空き家率増加』。
過去は変えられないものの、未来は今の意思決定で変えられると考えると、これからでも対策を考えないとさらに大変なこととなる。空き家率が増加している背景に、人口が減少しながら過剰ともいえる新築着工が続いているということが挙げられる。

”量の充足”から”質の向上”への転換は必要でもあり、長期優良住宅低炭素住宅ゼロエネルギーハウスなどの一定水準以上の品質、資産価値が維持できるようなロケーション、街並みを創造する住宅の新設はまだ不十分で、今後もニーズは続くだろう。しかし大きな問題は、コンパクトシティや立地適正化計画に逆行するような、
郊外に未だにアパート建築が建ち続けているということ。”行政の建築許可が出ない限り着工できない”建築物によって、周辺の空き家・空室を加速化させている。

特に税制改正になって、相続税の基礎控除が4割縮小され、『相続税対策』をビジネスチャンスとして営業活動を強化した大手ハウスメーカーの営業攻勢と、多額な紹介料・手数料によってその営業活動の応援団となってしまった税理士や地元金融機関によって、需要を超えるアパート建築が増加する要因になってしまった。実際には、相続税を支払わなくていい、対策が不要な人たちまでアパート建築をすることによって、手元の資金やアパートローン支払いだけでなく、将来の土地資産まで失わせるリスクを負わせてしまっている。

新築着工の総量規制等は出来ないとしても、立地適正化計画による「網掛け・線引き」で、建物の用途や居室の最低床面積等の規制・抑制は可能だろう。逆にそれをしなければ、外来種に浸食されるがごとく、郊外の田園風景もそこで代々受け継いできた地主の生活も崩壊していき兼ねない。アパートローンの急増は、金融庁やNHKでも指摘されている公知の社会問題だ。



ハムステッド・ガーデンサバーブ住宅問題の先進国イギリスでは、地主は基本的に自らお金を用立てて、他人が住む家を建ててあげるということはせず、その土地に住みたい人たちが建築費を用意すれば、長期間にわたって土地を貸す『リースホールド』(=定期借地)を行ってきた。土地自体は地主のものなので、例え自ら建物を所有するとしても、好き勝手なことは出来ず、しっかりとした景観形成やコミュニティのルールを定め、経年するほど豊かな住環境へと熟成していった。

つまり、ローリスク・ローリターンで、長期にわたって安定的な収益を得ながら、地元の人たちの住居費負担を抑え、その分街路樹や建物の修繕・維持管理も含めて、自分が所有する土地周辺の資産価値を高めることを可能とした。入居者にとっても、その地域に住みたいという魅力ある住宅地に、新たな入居希望者が現れ、適切な維持管理が出来ている建物は、例え中古になっても売買価値を生んで、売却・移住後も余裕のある暮らしが出来ている。

翻って、日本では借家や借地に住んできた人たちは、戦後の経済成長やバブル経済で上昇した地価や利便性によって得た潜在利益は、土地所有者の正当な理由がなく退去を求められれば、利益を享受できるのは地主ではなく、借主ということが長く続いた。そして貸したら返って来ないので、高い固定資産税と相続税負担にあえぎながらも、ほとんど耕作しない畑や青空駐車場として、有効な土地活用をしないまま放置してきた。いい立地にあっても、実際には相続税が支払えず、物納も出来ないまま国税の担保設定されている『塩漬けの土地』も少なくない。

広島市近郊のこのような土地は、現状雇用も生まず、住民も住めずに、周辺の土地需要がひっ迫して、人口減少・土地需要減退になりつつある状況にも関わらず、地価の上昇と宅地の狭小化を促進する原因となっている。比較的余裕のある敷地に建っていた邸宅は、相続税負担の大きさや後継者の県外居住、別居での自宅購入などによって親が亡くなると売却され、敷地を細分化されて建売りなどで販売されるから、ますます住環境は悪化し、周辺の長期的な資産価値を低減させるという悪循環を続けている。

この状況を好循環にするためには、イギリスの地主のように自らの土地を手放すことなく、平成3年に法改正された『借地借家法』による「一般定期借地」などを上手に利用して、良質な住宅地形成のために安心して土地を貸せるよう、自治体としても何らかのインセンティブ、制度設計などをしたほうがいい。

奇しくも『シェアリング・エコノミー』という、個人が所有する遊休資産をシェアすることで、地方でも新しい経済活動が生まれる時代となり、車や家の所有にこだわらない世代が、消費の中心世代になってきた。「せめて土地くらいは、子供たちに残してあげたい」と親が購入した自宅を欲しいという子供たちは、今圧倒的に減りつつあるのが現実で、土地は“負動産”になりつつある。所有するよりも生活を楽しむ層が増えている。

これまでのように、相続税対策のために、自ら借金をして県外の大手ハウスメーカーにアパート建築を任せれば、全国どこに行っても同じような『ファスト風景』が地主の自宅周辺に出来てしまう。しかもそのお金は地域の外に流出していく。しかし、まとまった借地を地元の子育て世代に使ってもらい、地元の設計事務所・工務店・建設会社に、地域の特色ある住宅を一体で建築してもらうことで、建築コストを抑えるとともに、新たな景観を創造したほうが、地主や入居者だけでなく、自治体にとってもプラス効果が大きいだろう。

それは立地適正化計画に基づく、地区詳細計画の設計や、条例の制定など、あらゆる手段によって可能になるのではないだろうか?決して県外の業者が営業できないようにする『排除の論理』ではなく、地元に住む人たちへの経済的負担の軽減や、地域コミュニティ形成による子育て・介護環境の『共助推進』にも繋がる「愛情ある」政策であり、持続可能な都市をつくるための新しい発想の転換だと考える。

大手ハウスメーカーに雇用され、土地活用を進めてきた営業マンも、支店が撤退した後に自ら起業し、前職時代のノウハウや人脈を利用して、広島市内で会社運営をし、地元企業や地元専門家とコラボレーションしたほうが、よほど自分にとっても地域にとっても経済的にプラスになるだろう。小さな資本、地元だけでは出来ない製品開発・販売チャネル構築など以外は、地元で新たな雇用を生むことは十分可能だ。特に住宅建築や不動産販売(不動産仲介)は、本来小資本で出来る地域密着型ビジネスでもあり、私の周辺でも数多くのOBが起業している。

地元の施工者や設計者の情報が少ないため選べないという状況もあり、相談窓口や個人の住宅の入札実施やコンサルティングなどのビジネスも新たなサービス産業として成り立つだろう。



次回は、まとめとしてアメリカファーストや都民ファーストなど、恵まれた国や地域がなりふり構わない自己中心的ふるまいをする中で、地方都市が生き残っていくための重要な考え方を紹介します。



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Posted by cms_hiroshima at 17:00