今月の半ば、私が不在中に県外の設計事務所から電話が入りました。広島在住の知人が自宅を建てるので、自分が設計を手掛けているが、コストを抑えるために分離発注で行う予定で、施工者や職人さんを紹介して欲しいということでした。地鎮祭に出席のため広島に来ているので、本日でも会ってもらえないかとの伝言です。
当日はすでに予定がいっぱいなので、都合がつかないとお断りすると、また翌日連絡があり、空いた時間があれば夜でも事務所に伺いたいという話でした。珍しく夜は飲み会のお誘いがあったため、丁重にお断りしメールで事前連絡をしてもらうように伝えたところ、ようやく事情説明が書かれたメールが届きました。
設計事務所が、自分の地元で仕事をした場合、自分が図面さえ描けば、どこのどんな職人が施工しても期待したような仕事に納まるというのでしょうか?しかもコストを抑えるために「元請の工務店」を排除して、職種ごとに複数の専門工事業者を競わせて、安いところを選び、現場で初めて顔合わせする『外人部隊』を集めて、本当に施主が設計事務所に期待するクオリティの建物が建つと考えて、今の仕事の進め方をしているのでしょうか?
地元で自分自身が現場の監理(+管理)までするのであればまだしも、仕事の経験のない県外で、しかも工程によってはお互い顔も合わすこともない職種もある「住宅建築」で、初顔合わせの設計者と施工業者が分離発注型の工事を進めようとすること自体、私は施主に対する背任行為ではないかと感じました。
恐らく住宅建築を中心に仕事をする多くの設計事務所は、大工や左官、基礎工事など、主要な工事に関しては自ら安心できる技術力のある職人や施工者を指名するでしょう。「私の設計意図を理解して、確かな施工技術を持っている会社をご紹介します」というのが一般的です。一度も一緒に仕事をしたことのない会社だけを集めて、相見積(競争見積)をし、安い会社を選ぶようなことは、例えプロが発注者でもリスクが高いと言わざるを得ません。
仮に見積時点で安かったとしても、後々見積から漏れていた「取り合い部分」が追加工事で発生したり、安全マージンを見込んで割高の見積を提示するなど、チームワークのない「分離発注型」の建築工事は、見積が適正かどうかを見極めるのは容易ではないのです。そのリスクはすべて「施主自身」が負い、設計料(監理含む)以外に、コンストラクション・マネジメントフィーまで負担するのであれば、元請の工務店の利益が設計事務所に移動するだけで、チームワークや責任の所在があいまいな現場が進んでいくだけです。
私はその問合せのメールに、上記のようなことを書き、とてもこちらでは紹介できないこと、そして本来受けるべき仕事ではないことを伝えました。とはいえすでに設計料を支払って地鎮祭を終えたお客さんがいることから、広島市内で分離発注型のプロジェクトを進めている知りあいの設計事務所を教え、相談してみるように伝えました。
建築は設計図書さえあれば出来るものではなく、しっかりとした「施工計画」と「施工技術」が伴ってこそ、期待された仕事が出来るということは設計事務所でなくても分かっていることでしょう。施工者も決まっていないまま、地鎮祭を執り行っていること自体、まず「施工計画」さえないことが分かります。
施主の不安を解消し、安さよりもまずは「期待したクオリティの仕事をする」のがプロであれば、地元以外で分離発注の仕事をするのは言語道断と言わざるを得ません。新幹線で週一回現場チェックできるというレベルではないのです。私は例え「設計・監理だけ」であっても、300Kmを超えるような遠方の仕事は、発注者が「個人」で「一戸建て住宅」であれば、断るのがプロとしての態度だろうと思います。