2019年01月17日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|さいごに

広島平和大通り

広島市に送った私案の最後に、まとめとして個人の思いを以下のように書きました。

さいごに

今でも圧倒的な経済大国であり、人口が増え続けている米国でさえ、貿易赤字に苦しみ『アメリカファースト』を訴える候補が大統領に就任した。また一国と同等の経済力があり、人口も増えている東京都も、都知事が代表を務めた『都民ファースト』が、圧倒的な支持を集めて、既存政党の自民党は惨敗した。

地方都市であり、人口の減少や財政の悪化、そしてインフラへの投資を続けることが厳しい状況が確実な広島市が、地元に住む地主や中間層のお金の流出を出来るだけ防ぎ、資産価値が高まる方向へ舵を切る『ひろしまファースト』が、都市計画でも経済対策でも求められているのではないだろうか?生活がしやすく移動や住居に掛かる負担が少なく、緑が多くて自然が近い街には、移住してくる人々も、優秀な人材を求めて移転する企業も増えてくる可能性が高い。人の繋がりがある、コミュニティ活動が活発な場所では、出生率も高くなっている。

その意味で、ドッグイヤーと言われるほど急速に環境が変化し、『シンギュラリティ』と呼ばれる技術的特異点が、人工知能等によって大きく社会を変える時代を迎えることを踏まえて、もっと緻密に立地適正化計画を考えるべき時代になっているだろうと感じている。

バブルの頃、トヨタ自動車の拡販戦略を真似、販売チャネルを5つ整備し、限られた資源の分散化によって苦境に陥ったマツダは、住友銀行やフォードといった外部の資金と経営ノウハウを取り入れることで、比較的短期間で甦った。しかし、企業経営であれば大胆なリストラや損切り、経営陣の刷新なども可能で、新たな成長戦略も描けるが、都市の経営は今の意思決定が20年、30年、建物や風景は50年単位で持続し、簡単には変えられない。だからこそ私たちは『身の丈の経営』を広島市の経営計画・都市計画でも立案しなければならないと思う。

またこれだけ自然災害が増えている状況で、水害や土砂災害の危険のある地域では住宅建設を抑制し、将来的に『バッファゾーン』をつくったほうがいい。砂防ダムなど、災害防止対策に掛けるコストや遠い将来を考えた時、そこに人の生活がなく緑地や農園等であれば、人的被害は最小限に抑えられる

広島市の代表的なバッファゾーンの2つ平和大通り太田川放水路は、昭和になって整備され今は広島を特徴づける景観にもなっている。公民館などの公共の建物には『地下シェルター』や災害備蓄など、地域住民が緊急避難できる頑丈な施設も必要だろう。過度にプライバシーを重視した分譲マンションは自治会への参加率が低く、災害時を考えると米国のTNDのように“地域コミュニティの醸成”が出来るような住宅供給が求められる。

次回は、広島都心活性化プランに関して、広島市と広島県に送った意見をご紹介します。  

Posted by cms_hiroshima at 17:00

2019年01月15日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|5.相続対策と空き家問題

空き家と土地活用

前回投稿した『4.市内に残る、遊休地、跡地利用』に続き、今日はテーマ5として、相続対策と空き家問題を取り上げました。急激な高度成長による土地価格の急上昇と、バブル崩壊による地価の下落を経験した日本は、今や土地は「不動産」ではなく『負動産』とまで言われるようになり、相続の際はお荷物にさえなりかねない状態になってきました。


テーマ:5相続対策と空き家問題

自治体にとって大きな問題になっている『空き家率増加』。
過去は変えられないものの、未来は今の意思決定で変えられると考えると、これからでも対策を考えないとさらに大変なこととなる。空き家率が増加している背景に、人口が減少しながら過剰ともいえる新築着工が続いているということが挙げられる。

”量の充足”から”質の向上”への転換は必要でもあり、長期優良住宅低炭素住宅ゼロエネルギーハウスなどの一定水準以上の品質、資産価値が維持できるようなロケーション、街並みを創造する住宅の新設はまだ不十分で、今後もニーズは続くだろう。しかし大きな問題は、コンパクトシティや立地適正化計画に逆行するような、
郊外に未だにアパート建築が建ち続けているということ。”行政の建築許可が出ない限り着工できない”建築物によって、周辺の空き家・空室を加速化させている。

特に税制改正になって、相続税の基礎控除が4割縮小され、『相続税対策』をビジネスチャンスとして営業活動を強化した大手ハウスメーカーの営業攻勢と、多額な紹介料・手数料によってその営業活動の応援団となってしまった税理士や地元金融機関によって、需要を超えるアパート建築が増加する要因になってしまった。実際には、相続税を支払わなくていい、対策が不要な人たちまでアパート建築をすることによって、手元の資金やアパートローン支払いだけでなく、将来の土地資産まで失わせるリスクを負わせてしまっている。

新築着工の総量規制等は出来ないとしても、立地適正化計画による「網掛け・線引き」で、建物の用途や居室の最低床面積等の規制・抑制は可能だろう。逆にそれをしなければ、外来種に浸食されるがごとく、郊外の田園風景もそこで代々受け継いできた地主の生活も崩壊していき兼ねない。アパートローンの急増は、金融庁やNHKでも指摘されている公知の社会問題だ。


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Posted by cms_hiroshima at 17:00

2019年01月11日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|4.市内に残る、遊休地、跡地利用

P1420507
前回投稿した『テーマ:3.郊外の誘導施設の設定に続き、今日はテーマ4として、広島市内に残る遊休地、跡地を取り上げました。画像はその中でも最も市民が関心を持ち、都心の賑わいに大きな影響を与えることが分かりながら10年近く放置されている『旧広島市民球場跡地』です。

テーマ−4:市内に残る遊休地・跡地利用

例えば三原市でシャープの工場が閉鎖され、従業員250名が福山工場に移動したケースは、広島県全体やシャープ自体には影響はなくても、従業員家族の転居や跡地利用は地元自治体にボディブローのような影響を及ぼす。東広島市のマイクロンテクノロジーの2500億円の投資も、当面撤退しないとの企業側の意思表示に地元自治体は歓迎の意を表明するが、現実的にはAIや自動化、省力化への投資であり、高度な技術者の雇用は本社採用が中心で、地元は雇用が増えるどころか非正規や契約社員、管理スタッフだけで足りるということになり兼ねない

楽々園官舎跡地広島市内でみれば、油谷重工(現コベルコ建機)の工場があった下祗園駅前や、佐伯区楽々園の官舎跡地(旧国有地)など広大な土地の売却や跡地利用が目白押しだ。ある程度通勤に便利で、住宅地に適していれば資本力のある(=高値でも入札に参加できる)大手マンションデベロッパーか大手ハウスメーカーが土地仕入れに走り、分譲マンションや「建築条件付き」の戸建て住宅が建設されている。

コンパクトシティ』や『立地適正化計画』という側面だけからみれば、郊外から近郊への居住空間の移動が実現でき、一定の人口密度が維持できるという評価も得られるかも知れない。しかし地域経済や住民の負担を考えると、そんな単純な話とはならない

それまで地域に継続的な雇用を生み、法人税や固定資産税も支払っていた工場跡地は、宅地造成によって上下水道や道路など、インフラ投資を地元自治体が負担し、土地加工をした費用に利益を上乗せされて周辺の土地価格を押し上げ、
地域の外から来た企業が多大な販売経費を上乗せした住宅を販売し、数年でそのお金(数十億円〜百億円超の住宅販売金額)を地域の外に持ち出していく

高く買えるところに土地を売るという、経済合理性だけで明確な都市ビジョン、地区詳細計画がなければ、落札した企業は周辺の環境よりも経済的利益を重視し、出来るだけ容積率いっぱいに土地を活用し、手間を掛けずに短期間に高く売却して、その後事務所の維持や人の雇用がないことが望ましいと考えるだろう。そのような企業は、ほとんどが大都市圏に本社を構える上場企業で、大都市に比べると相対的に安く感じる広島市内の土地を、地元の相場を知る地元企業では手の出ない価格で買い漁り、販売したお金もその利益で生じた法人税も、地元に落ちることはほとんどない。私が住むマンション群を分譲した大手不動産会社も支店を撤退した。

特に公有地の売却は、本来であればもっと安い価格で土地を購入し、地元の設計事務所や工務店・建設会社で安く住宅を手に入れられていたのに、わざわざ地元の人たちに多額な借金や高齢者の資産移転(住宅取得資金の生前贈与)をさせてまで、割高の住宅を買わせて、お金を地域外に流出させる手助けをしているといっても過言ではない。

区分所有のマンションは、大規模化するほど最終的には、維持・修繕や建替えは住民の5分の4の賛同を得るのが困難となり、また多大な販売経費を負担した戸建て住宅は、過大な住宅ローン返済によって、購入者の購買力を大きく低下させて、しかも実際の資産価値(=中古で売却する場合の市場価格)はローン残債を大きく下回り、資産の流動性や将来の生活の柔軟性まで奪ってしまう。また地価の高さは、福岡や岡山などの他の地方都市と比べた、都市の競争力も奪っている。

かなり厳しめの意見を提出しましたが、実際にはこのような状況を放置していることで、地方経済は停滞、衰退に向かい、そして地方の一等地、利便性の高い土地取引で大きな商いをした大都市圏の企業が、優秀な人材を地方から吸い集めて『東京一極集中』がさらに加速化しているのです。

立地適正化計画は、単に居住地域を集約し、将来の自治体財政を健全化するという「行政側の都合」だけでなく、都市経営を戦略的に活性化させるための、土地利用の最適化、地域経済の活力に結び付ける視点が大切です。  
Posted by cms_hiroshima at 17:00

2019年01月10日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|3.郊外の誘導施設の設定

THEアウトレット広島
前回の投稿『テーマ−2:公共交通網の将来ビジョン再構築』に引き続き、3つめのテーマで書いた意見をご紹介します。

テーマ−3:郊外の誘導施設の設定

広島市の郊外、安佐南区の人口は23万人を超え、人口規模でいえば『中核市』の要件をクリアしている。現在欧州の地方都市でいえば、人口10万人程度の都市でも路面電車の整備が進み、人口20万人の都市で、公共交通網が整備された中小都市は、中心市街地が栄えている。それは日常の買い物だけではなく、勤務先や仕事帰りの盛り場、レクリエーションの場も中心市街地に集まっている。半径3Km程度に一定の中心市街地があれば、通勤の移動時間、移動コストも抑制され、都心の渋滞緩和にも繋がるだろう。

現在の日本のベッドタウンは、そこから都心への通勤を前提とした”単一用途”で”同質の住民の集合”となっている。生物も都市も「多様性」による新陳代謝、環境変化への柔軟性が生存の持続性に繋がっており、多様性のない街、住民の状態を変えていく必要があるだろう。

ニュータウンに入居したばかりの人々(広島では、祇園ニュータウン春日野、セントラルシティこころ、西風新都グリーンフォートそらの等)は購買力もあり、子供もいることから家族で郊外のショッピングモールに行き、買い物やレジャーを楽しんでいる。つまり車での移動でしか買い物ができない状態になっていても、それを楽しむ余裕がある世代だ。しかし20年もすれば子供たちは大学進学や就職で自宅を離れ、やがて定年を迎えて、ショッピングモールでの買い物の機会は減ってくる。

さらに後期高齢者になれば、車に乗ることも控え、ネット通販や宅配に頼るか、近所のコンビニ利用というのが、昭和の時代に分譲された郊外団地にすでにみられる現象で、それはそのままカーボンコピーされる可能性が高い。米国のアマゾンを始めとして、将来の小売流通業がどのように変遷していくか、今のところ不明ではあっても、そのような状況で郊外にある巨大なショッピングモールがそのまま出店維持できるとは思えない

すでに呉市や福山市でさえ、JR駅前の大型商業施設は売上が維持できず、県外の大手百貨店でさえ撤退して空きビルとなっている。その状態が、今後広島市の郊外で発生しないという確信は得られない。その段階で行政が打てる手がないのであれば、現状の延長線上での計画は見直さなくては、今の意思決定が将来大きな負の遺産をつくるだけだろう。

従って、通勤だけでなく買い物も含めて、一定の距離に商業集積やビジネス施設の集積を誘導し、起業・開業や正規雇用の働く場を提供できるような地区計画、誘導施設の設定が急務だ。

現在のような巨大な資本力を持つ県外の上場企業の進出を期待し、大型小売店舗の誘致や巨大物流施設・倉庫の誘致をしても、地元ではほぼ「非正規雇用」しか生まず、物流の大きなイノベーションが起こり、人口減少で売上が下がれば、簡単に撤退していくのはすでに他地域で起こっている現実だ。その跡地利用に悩まされるのは、誰か考えたほうがいい。

むしろそのような大企業に勤めた経験のある人や、ノウハウを持つ経営コンサルタント、元経営者などを指導者として登用し、地元主導で地域色豊かな店舗運営を目指したほうがいいだろう。首都圏で大きなプロジェクトに携わりUターン、Iターンしている人は少なくない。アストラムライン延伸に投じるお金は、新たに中心市街地をつくったほうがはるかに有効だろう。


『立地適正化計画』は、人口減少により、人が暮らす地域を少しずつ狭めていくよう誘導していく都市計画です。つまりダウンサイジングとかリストラクチャリングと同じく、戦略的な撤退や縮小を丁寧に進めることが欠かせず、シェアリングエコノミーのような新しい社会環境の変化や技術の進展も予測することが肝要です。  
Posted by cms_hiroshima at 17:00

2019年01月09日

広島市立地適正化計画(骨子案)への私案|2.公共交通網の将来ビジョン再構築

マイカー乗るまぁデー
昨日投稿した『テーマ−1:人口密度のコントロール』に続き、2は公共交通網に関しての提案です。

テーマ−2:公共交通網の将来ビジョン再構築

ショートウェイ・シティのコンセプトで重要視されるのは、日常的な通勤や移動の自動車利用をいかに最小化するかということ。そのためには単にマイカー乗るまいデー』といった特定日のマイカー抑制の標語や呼びかけではなく、車で移動するよりも経済的にも時間的にも公共交通機関利用のほうが、いかにメリットがある状態をつくっていくかが重要となる。

この機会に、公共交通網だけでなく道路網も含めた都市交通の将来ビジョンを再構築することが必要だと考える。なぜなら、すでに自動運転が実用化段階に入り、ネット通販などで増加したトラック便や宅配便が、ドローンほか配達手段の多様化や、宅配ボックスの普及、コンビニ受け取りなどに進化していくことは確実で、交通トラフィックがどのように変化していくか、将来予測が不可欠だ。

その予測を元に対応策を考えない限り、余計なインフラ投資や将来の維持管理の負担などが避けられず、財政が固定化していく懸念もある。人口減少と相まって、増え続けた交通トラフィックと渋滞は確実に緩和されるだろう。それを自然の成り行きに任せるのか、自立的にコントロールするかで、将来が大きく変わってくるのは間違いない。

郊外(=居住誘導地域)に関しては、現状「ベッドタウン」が多く、夜間人口と昼間人口のギャップが大きい。まずは地域ごとのコーホート分析を行えば、団地の高齢化と共に住民の高齢化も進み、通勤をしない高齢者の増加、若年層の流出、人口密度の低下や空き家の増加などが数字で裏付けられるだろう。

その予測の上で、バス路線やアストラムラインの延伸ほか、公共交通網の整備や、パーク&ライド用の用地取得などを計画しなければ、将来的に赤字路線が維持できなくなる懸念も生じる。バスのように運行ダイヤの見直しだけであれば、代替交通手段も考えられ、行政の負担は最小限で済むが、高架の建設や高額な車両の購入などの巨額なインフラ投資は、将来の維持管理まで見込まなければならない。しかし住民は”経済合理性と時間効率でしか交通機関・移動手段を選ばない”から、アストラムライン延伸は負の遺産になるリスクは決して小さくない。

ちなみに私は西風新都のAシティ在住だが、やはりアストラムラインの競合はバスや自家用車利用の「都市高速4号線」であり、最終目的地への移動時間と負担コストを比較して利用を選ぶ。西広島駅の乗り換えでのアストラムラインの競争力がどの層、どの立地にあるのか確かめたほうがいい。

現在Aシティやセントラルシティこころは、“乗り換えなしの直通”で、移動運賃400円前後、15〜20分で市内中心部に移動・通勤出来る。自家用車も同様だ。延伸されるアストラムラインがそれと同等の価格・時間内で移動できるとは考えられず、西風新都に住む住民として、現状では環状線としてループしても乗客は減る一方だと感じる。少なくとも延伸・開通する頃には、通勤・通学客は今よりもはるかに減少しているだろう。

さらに100年単位でみれば、路線が廃止されたJRの線路や鉄橋と同様、その時点で維持管理や撤去する経済力がその地域にあるかどうかも考えなければ、自治体の役目は果たせない。


続いて、この提案の解説です。

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Posted by cms_hiroshima at 17:00