シアトル視察の日記を更新していましたが、忙しくなって更新が疎かになっていました。この間、今年も豪雨による土砂災害や水害に見舞われましたが、去年の広島土石流災害からちょうど1年目の8月20日に、シアトル視察報告のニュースレターを発行し、私とご縁のある方やOB施主には郵送しました。
MS−パブリッシャーで写真を切り張りし、原稿を書いて編集後記となりました。訪問先の報告だけでなく、住宅の資産価値が下がり続ける日本と、逆に古い建物でも資産価値が上昇するアメリカの違いは何なのか、想いを書いていると長文になりました。
せっかくなので、ブログの読者にも長文の編集後記を以下ご紹介しておきます。
【編集後記】
結果を重視するアメリカ人と、プロセスを重視する日本人。結果が望むものでなくても、プロセスが納得出来ればその結果を受け入れてしまうのが日本の良さでもあり、住宅に関して欧米との差が広がっている一因です。
それは「結果(=ゴール)」の設定の甘さや執着心の差なのでしょう。欧米人にとって“住宅取得のゴール”は『将来売却した時の販売価格』です。
決して“購入時がゴール”ではなく、売る時の結果で評価するのが欧米人の発想です。大学も同様に、どの大学に入学するかよりもむしろ入学してからの勉強で将来どのような仕事を選ぶのかが大切です。ゴールの設定は目の前ではなく、今の選択が将来どのような影響を及ぼすか熟考して決断します。
特に米国は平均で7年程度で家を移り住んでいきます。
家に家族を合わせるのではなく、
家族の成長によって変わるライフスタイルにあわせて、自分たちの「今の生活・負担能力」に見合う住まいを探すのです。
日本の注文住宅が
「世界中であなたの家族だけにベストフィットする家を、オリジナルでつくります♪」という“心地よい響きのことば”の裏側で、家族構成が変わり負担能力が変わっても柔軟に対応できない、老後に部屋を持て余し、介護に改造が必要な住宅は決して「良好な結果(=ゴール)」ではありません。
私がそのことに気づくまでに、20年以上掛かりました。
何度も欧米を視察し、現地の豊かさを感じて実際の声を聞くことで、これまでの日本のゴール設定が間違っていたということに気づかされたのです。
自分たち家族の使い勝手や好みだけを反映した建物だから、売りに出しても他人には使い勝手が悪くて安くしか買ってもらえず、ずっと持ち続けるしかないのです。
戸建てで7年も暮らせば、中古で売り出してもほぼ確実に1千万円以上価格が下がるでしょう。だから30年も経てば建替えしたほうが良くなり、住む人がいなくなれば「空き家」として、市場価値のない住宅になるのです。
合理的発想で、負担したお金に見合うリターンを期待するアメリカ人は、預金や株式運用よりも、住宅取得がもっとも長期に亘って安定的に「運用益が見込める」ことを知っています。サブプライムローン問題もリーマンショックも数年で乗り越え、すでに全米で適正に管理された良好な住宅地は、価格が上昇しています。
ゴールが「売却時に高く!」なので、しっかりと手入れをし、近隣で資産を毀損するような行為があれば、みんなが注意を促し、魅力ある住宅地を維持するようなインセンティブが働きます。
自分が所有する
住宅不動産の価値が上昇することは、個人はもちろんのこと近隣の住民も、固定資産税収入を得る自治体も、誰も損をすることのない『共通の利益』です。利益を共有できるから、お互いが協力し資産価値を高める努力が継続できるのです。
そのためには「今売ればどのくらいの値がつくのか?」という不動産価格の成績を誰もがリアルタイムで確認できる不動産情報の網羅と透明性が欠かせません。それがアプレイザルと呼ばれる不動産鑑定システムであり、MLSという不動産データベースの整備です。
米国の都市計画や住宅設計に詳しい専門家によると、アメリカでは「その建物が建てられたら、周辺環境にどのような影響を及ぼすのか」の分析を徹底的に行い、不足するデータを要求してはじめて『建築許可』が出されると言います。
一方、建築法令の範囲内であれば、景観や地価への影響は全く考えず安全性面だけ審査して『建築確認』を行う日本では、街並みや景観に差が出るのは必然です。共通の利益とゴールがどこにあるのかで、豊かさにも差が生じているのです。
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