前回のブログでは、私が広島県と広島市に送った『ひろしま都心活性化プラン』への意見の「2.エネルギー収支の改善のために」を転載しました。公募意見として提出したとはいえ、全文が公開されるわけではなく、一部を切り取って「市民の意見」が紹介され、それに対して行政からのコメントが付くだけなので、ほとんどスルーされたも同然の「市民の意見を聞いたアリバイ」としての価値しか感じられません。
今回は、やはり自ら米国の住宅地を視察し、その住環境の豊かさと資産形成のメカニズムを現地の専門家に聞いた話から、地方都市でも可能な豊かさのヒントを3.としてまとめました。
画像は米国フロリダ州のオーランド郊外の新興住宅地『ボールドウィンパーク』の景観。私自身がデジカメで撮った写真です。実は20年前のこの場所は米軍基地で、写真の水辺の空間は当時アスファルト舗装された基地の駐車場だったところです。まるでゴルフ場をつくるように、価値の低かった土地を加工し、人工的に美しい理想郷をつくりだしているのです。
3.雇用創出と貨幣の地域循環(地域外流出の抑制)
米国が豊かなのは、旺盛な購買力・過大消費によって保たれており、その多くは借金によって国外から商品を購入している。経済が縮み人口減少が顕著な日本の地方都市が同じように消費によって地元民のお金が「県外に流出」すれば、地域の衰退は明らかだ。IT化によるビックデータの把握によってお金の流れを捕捉するなど、少なくとも統計データ化し実態と推移は継続的に把握しておきたい。結局お金の移動が“東京一極集中という人の移動”に繋がっている。
米国は住宅取得によって不動産の資産価値が上昇するのが政府や自治体の大きな役割であり、そのエクイティ(資産増加額)を担保に借り入れができるから、個人の購買力が増している。自治体にとっても固定資産税が増加し、住民自身によって不動産価値が高まる住環境の整備を自主的に行う好循環が出来ているから、米国の多くの住宅地が美しい景観を維持できているし中古流通も活発だ。それは、長期的な都心活性化プランにも入れるべき「目指す姿」でもあり、それによって空き家の減少や土地の有効利用、老朽化した家屋の更新などに繋がっていく。
まだ大きく問題視はされていないが、都心に増え続ける分譲マンションと、マンションの高層化は、大規模修繕が必要になってくる築後20年以降に大きな社会的問題になっていく懸念がある。都心部の高い地価がアダになって、相続税負担やテナントビル建設のリスクが負えない土地を、不動産デベロッパーが購入すれば、投資資金の回収が早く、価格交渉の知識のない多数の一般市民に対して分譲マンションを販売するのが最もリスクが分散され、経済的メリットが大きい。その結果、平和大通りや中心市街地まで分譲マンションが増殖しているが、都心居住のメリットよりも、セキュリティやプライバシーを重視したエントランスや駐車場出入り口の歩道の分断が、都市の賑わいを削ぎ、閉鎖的な空間を都心部に点在させる結果になっている。
さらに、多くのプロジェクトが容積率いっぱいか、容積率緩和によって高層化し、投資金額の増大によって大手資本による土地の争奪戦の様相になっている。結果、大都市圏のマンションデベロッパーや大手ハウスメーカーが事業主、建設も大都市圏本社の大手ゼネコンが請け負い、その売上の多くは地元の購入者の財布から金利までつけて県外に流出している。テナントビルと比較して土地自体の固定資産税は抑えられ、建物の固定資産税は減価償却で低減していくから、実際に自治体にとっても都心の分譲マンションが歓迎されるか大いに疑問でもある。少なくとも低層階は店舗やオフィスとして、雇用の場や商業活動の場を提供し、地域のにぎわい創出と経済的利益を得られる土地活用に誘導しなければ、都心の賑わいは分断されるばかりだ。
タワーマンションをはじめとする都心の分譲マンションは、比較的年齢層の高い現役世代やセミリタイヤ世代、投資目的(=賃貸経営)の購入が多く、30年後の都心活性化プランを見据えた時に、大規模修繕や相続発生、将来の建替えなどにより、どのような姿になるかの予測も考慮しなければならないだろう。長崎の軍艦島のように、解体も維持管理も出来ない廃墟になることだけは避けなければならない。しかし呉市や福山市・三原市など県内中堅都市の駅前を見ても、30年前は賑わいが予想されて建設・誘致した大型商業施設が、巨大な跡地を残しているように、急速に変化する都市環境、人口減少社会を見据えた「身の丈」の街づくりが望ましい。でなければ、トヨタに追従して5チャンネルの販路拡大したマツダのバブル後の苦境と同じ轍を、都市経営で広島市が踏むことにならないとも限らない。今の計画と意思決定が50年後の広島市の未来を決める。
今、地方都市は「地方創生」の呼び声の元、国の予算をあてにし、首都圏を中心とした大企業の誘致による開発や整備を期待しています。それは、発展途上国がODA(政府開発援助)で、人・もの・金を先進国に頼ったと同じ『発展途上国モデル』でしかなく、プロスポーツで考えれば”実績あるスター選手を高額でスカウトする”状況と同様です。
かつて広島のプロスポーツチーム『広島東洋カープ』や『サンフレッチェ広島』は、在京の金持ち球団から、実力をつけた中軸となる選手を「フリーエージェント制」などで何人も奪われてきました。しかし1人の優秀選手の移籍で得たお金で、数名の若手をコツコツ育て、今や在京の球団にも誇れる強い球団となり、市民からも愛されて集客力も高まってきました。しかも選手の年棒総額は在京球団よりもはるかに低くても、モチベーションの高い選手たちが活躍し、オールジャパンの選手にも選出されるようになったのです。
財政力に劣る地方都市が、在京の大企業に大枚をはたいて来てもらう構図は、カープやサンフレッチェと全く逆の構図ではないでしょうか?資金力の乏しい弱小球団が、起死回生でヨーロッパで活躍する有名サッカー選手を数十億円払って転籍し、活躍を期待するようなものです。
数年は目を見張る結果が出たとしても、それは彼の引退によって元の状態に戻り、一時的な繁栄に終わってしまいます。そのお金で地元の若手の育成をすれば、どれほどの無名選手が、競争力をつけて活躍し、将来高い移籍金を球団にもたらせたか、その可能性に賭けたほうが地域にとって大きなプラスの資産が残るということを両球団が証明してきたのです。地元行政にとっても、2つのプロ球団の経営こそ、学ぶべき手本ではないでしょうか?
次回は「4.交流人口・観光客の増加」をテーマに続きます。
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