前回のブログでは「3.雇用創出と貨幣の地域循環」というタイトルで、都心部に増えている分譲マンション、タワーマンションに対する懸念を発信しました。やはり中心市街地で増殖している『コインパーキング』も、歯槽膿漏で歯が失われていく高齢者と同様、都市が高齢化状態を迎えていることを示しているのでしょう。私はコインパーキングを「都市の耕作放棄地」と呼んでいます。
今回は、インバウンドをはじめとした『観光』や『交流人口』についての提言です。
4.交流人口・観光客の増加
現在、広島市内の観光客は年間約1,200万人。
ここ数年、外国人観光客の伸びは飛躍的で、100万人に達した。一方でこれだけの観光客が来ながら、広島市内での一人当たり消費額は約18,000円程度であり、滞在型よりも「通過型観光地」になっている可能性が高く、少しでも滞在時間を伸ばすことが都心活性化プランにも求められる。それは単に宿泊施設の数ではなく、また街の景観や都市施設を充実させても、地域の外からの来街者の滞在理由に弱いことは、それぞれ自分の経験からも分かるだろう。そこにしかない『特別な来訪目的』が必要だ。
国際的・全国的なイベント(コンサートや競技大会ほか)やビジネス目的、グルメなど、宿泊を伴う目的が明確であれば滞在期間が延び、観光消費額も増えるだろう。しかし原爆ドームや平和記念公園といった「世界遺産」頼みの観光で、しかも観光バスや自家用車での来場であれば、観光地に最も近い駐車場を探し、駐車料金や駐車時間を気にしながらの観光にならざるを得ない。その結果「都心に観光バス用の駐車場が必要」という議論が出て、さらに”滞在せずに短時間で移動する観光客を地元自らつくる”悪循環を生じさせることの認識が必要だ。
原爆ドームや平和記念公園が現状“最も集客力のある観光資源”であれば、駐車場から各施設への往復ではなく、平和大通りにLRTやBRTの停車駅等があり、行き先が分散されることが望ましい。回遊性が高ければ、袋町や並木通りなど地域色豊かな地元企業が出店している商業ゾーンに観光客の流入も増加が期待できる。
私たちがポーランドの「アウシュビッツ収容所」や沖縄の「ひめゆりの塔」など、戦争の悲劇の歴史遺産を体験した時の行動をイメージしても、それを払しょくできるだけの魅力ある施設や街が近くにない限り、出来るだけ早くそのエリアは立ち去ろうとするのではないだろうか?周辺の景観の美しさや大都市と比べて中途半端な都市の賑わい、交通アクセスの悪さは、観光客の滞在を延ばすまでの魅力につながらない。
むしろ戦争の負の遺産をさらに強く印象付けることで、観光客の流入や滞在時間の延長、観光消費額を増やすのであれば、例えばドイツのドレスデンのように、戦禍で焦土になった街を戦前の街のように再生・再現するという努力がなされれば「こんな賑やかで魅力ある街を消し去ったのか?」という、非常に大きな印象を観光客に残すことが出来るだろう。候補地は、原爆ドームの目の前に広がる旧広島市民球場跡地や老朽化した商工会議所から市民プールなどの公有地でもいい。旧中島町の戦前の様子に再生し、実際にそこで市民の日常と商業・宿泊施設(大規模木造旅館)などが甦れば、世界中にどこにもない、特徴ある街が出来上がるだろう。
公有地は払い下げする必要はなく、定期借地契約で長期にわたって借地料を支払うことで負担も少なくでき、公園よりも人の雇用や経済活動にプラスになる。また新しい技術によって防火地域でも建築可能な地元産の大規模木造建築や、再生可能エネルギーを中心とした「地域コジェネ」を採用しながら、古い街並みを再現するような低炭素社会のスマートタウン先進事例にすれば、全国からの視察も相次ぐだろう。業務視察は、一般の観光よりも消費する額や滞在期間が長く、このような発想は、長期の都心活性化プランの素案でしか提示できない。
全国には、伊勢神宮の参道に新しく出現した『おかげ横丁』や地震で被災した熊本城内につくられた『桜の馬場 城彩苑』など、賑わいを取り戻した新たな観光スポットがいくつかあり、原爆ドームの目の前であれば、世界中から観光客を呼び寄せて、夜は河岸緑地を外国人が浴衣姿で楽しむ風情など、京都の鴨川同様の「そこでしか体験できない」貴重な観光資源になり得る立地だろう。
伊勢神宮は、内宮近くにあった駐車場を参道の外に移転させ、表参道となる『おはらい町』を昔の風情を感じる通りに修復していきました。特に地元の赤福が中心となって整備した『おかげ横丁』は、江戸後期から明治時代初期の街並みを再現した、徒歩中心の迷路のような商業ゾーンとなっていて、外国人観光客や参拝客だけでなく、観光客にも人気スポットとなっています。
参道を外れ、五十鈴川の橋から見る景観も画像の通り情緒があり、広島の元安川に架かる『相生橋』からの景観が、このような雰囲気になったら、原爆ドームとの対比ももっと強烈な印象として来訪者の心に残るのではないでしょうか?
間違ってはならないのは、やはり「その時代の空気まで再現する」というこだわりがなければ、単なるテーマパークになってしまい、羽田空港の国際線にオープンした『江戸小路』などと同じ、短期的にテナントが入れ替わり、観光客目当ての「表層的なファサードデザイン」になってしまうこと。
このようなショッピングゾーンやテーマパークは短命で終わってしまうのは、本物志向で巨大投資した岡山県倉敷市の『チボリ公園』でもすでに実証済みです。時間をかけて昔の雰囲気を再現した同じ倉敷市内の大原美術館を中心とした『美観地区』と比べれば、その差は歴然です。
どれほど資本を投じようとも、歴史の重みも、日本の文化や日本人が失ってしまった暮らしも感じることが出来なければ、日本人自身がノスタルジーを感じることはなく、まして外国人の心に残る景観にもなり得ないでしょう。
世界遺産として、未来に遺したい『原爆ドーム』が”冷凍保存状態”だとすれば、相生通りを渡った街は、広島の人たちが”人が生活する生きた街”として、その歴史や文化を、将来に遺してあげたい景観として、大切につくり、守っていけば、きっと来訪した観光客にも「また訪ねてみたい景色」だと、心に残るのではないでしょうか?
次回は「5.出生率の増加策と移住・定住者への魅力創出」のテーマに続きます。
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