前回のブログでは「5.出生率の増加策と移住・定住者への魅力の創出」というタイトルで、人口減少を抑制するために”この町に住みたい”と感じてもらえるような街づくりについて書きました。関連するテーマで、今回は土地の需要に関して書いていきます。
6.土地需要の減退と地価推移予測
経済のグローバル化が進み、またネット社会の進展が加速化すれば、高度成長期の都市の膨張により郊外立地から市街地に飲み込まれていった工場や物流拠点、そして大規模小売店舗などは、より「地価が安く」そして「労働賃金の低い」「交通アクセスが便利な」地域に移動していくのは必然だろう。残された工場跡地、物流センターの敷地は、仮にそのまま広大な敷地を別の用途として利用しても、雇用はほとんど「非正規労働」で「低賃金」しか見込めない。
また都市近郊の鉱工業(町工場)や商業が混在した地域では、企業の事業規模縮小や統廃合、郊外や海外移転など、今後土地需要は減退していくばかりではないだろうか。それでも過去15年間は巨大な工場跡地などに、広い駐車場を有する大型ショッピングセンターや複合施設が進出し、中小規模の土地にも家電量販店や食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの中規模店舗が定期借地で出店してきた。
しかし無店舗販売のネット通販が増加し、人口減少や賃金の横這い、家じゅうモノがあふれて物品購入以外の消費が増える中、借地契約の更新時に、賃料の減額交渉や再更新しないお店も増えている。ガソリンスタンドも街中から消える中、それらの空き店舗・空き地の需要を埋めてきたコンビニエンスストアや携帯ショップなども、オーバーストア状態になって来た。すでに都心に残る数々の公有地でさえ跡地利用が二転三転するような土地余り状態が続いている。高過ぎるか大き過ぎるのだろう。
そんな状況に加えて、高齢化した土地オーナーの相続の発生も急増し、相続人が地元にいないケースも増えて、所有権は分散、土地利用は迷走して結局、賃貸マンション建築などに活用されて“周辺の空き家をさらに増加させる結果”になっている。土地や親の家はお荷物にしかならないという、30年前には考えられない状況を、将来の30年の計画にどう反映させていくのか、十分に練った都心活性化プランで土地利用をもっと流動化・効率化・活性化させたい。
多くの地主は、土地需要予測や地価推移に対する知識はほぼ皆無であり、不動産経営に関しても業者任せのサブリース(家賃保証)など、自らリスクを取って「投資」や「経営」をしているプロの地主はいないだろう。これはシャッター街になっている商店街の不動産物件も同様だ。にも関わらず、地価が高かった頃の記憶と「もしかしたら将来値上がりするかも知れない」とか「そもそも広島に平地が少ないから需要は続く」といった期待感が、土地を手放したり投資が必要な土地活用には消極的な状況が続いている。
他人が利用するのも、すぐに契約解除可能な「駐車場利用」などがほとんどで、もちろん近隣の土地所有者と共同で利用し、現物出資による事業の共同化などによるリスク分散やリターンの最大化、地域の活性化寄与などは、誰も地主に教えることなく、相続税負担からの回避しか目的のない土地利用が進行している。一方で戦後、自然発生的に出来た木造住宅などの低層で小規模な土地利用は、多くの需要があるものの供給が少なく、坪単価が高止まりしているため、結局土地が細分化され、ミニ分譲で次第に住環境が劣悪になっていく。
緊急車両も入れないような狭い道路や権利関係が複雑な私道も残され、建替えも出来ず、木造密集地域で災害にも弱い街が、都心部近くに残されている。空き家になっても売られることなく、少しずつ歯抜け状態になっては、突然周辺とは不釣り合いな新築住宅やマンション建設が行われ、街並みの調和や地域コミュニティが失われていく。
政令指定都市で人口が120万人近くいる広島市でも、自治体が所有する広大な土地の活用が宙に浮き、プロジェクトに参画できる企業グループは、立地条件がいい場所のみ高層マンションを分譲するマンションデベロッパーやハウスメーカーばかりになってきています。
結局は、より高く土地を買うことができる業者は、出来るだけ早く加工して早めに売却して、建物の維持管理や入居者募集などに手を煩わされない、
短期間に儲けが確定する不動産事業しか関心がなく、そこには働く場所の提供も、子育て世代にも手の届く価格帯で近隣の高齢化率を下げるような分譲価格の設定もありません。ほぼバブル期に郊外に住宅を取得して、都心に住みたい中高年世帯をターゲットに間取りや価格設定をしたマンションが大半です。
区分所有で、簡単に大規模修繕や建て替えが出来ない、大規模な高層マンションは、建築時に容積率をいっぱいに使っているということもあって、入居者の高齢化や物件の供給過多、人口の減少や建物の老朽化が進むと、入居者だけでなく地域にとってもお荷物になるリスクを秘めています。それが顕在化した時には、分譲した業者はほとんどその地域から撤退しており、行政も何もできないということは今でも簡単に想像できる未来です。
実は、海外に学ぶと自治体の役目は、
地域の空き家率や人口動態に目を配り、空き家率が4%程度以下で推移するように新築着工を抑制するのが重要な都市計画の仕事だということです。
失業率と同様、それ以上に地域の発展や地元の人たちの資産形成と、美しい景観づくりには、町丁単位で空き家率や空室率を把握し、アパートの着工など、空き家率を悪化させて近隣の不動産価値を棄損させる建築許可申請は下さないということは、自治体でしかできない重要な役目なのです。
では、次回はもう少し土地や景観に関する話を突っ込んで「
7.美しい街並みを作るための緩やかなルールと用途規制」をご紹介します。
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